鑑賞記録(2022.4.25)アンドレイ・コンチャロフスキー監督『親愛なる同志たちへ』2020 @シネ・リーブル神戸

鑑賞記録(2022.4.25)

アンドレイ・コンチャロフスキー監督

『親愛なる同志たちへ』2020

@シネ・リーブル神戸

 

 

『親愛なる同志たちへ』2020/121分/ロシア/モノクロ・スタンダード/5.1ch

ロシアの巨匠アンドレイ・コンチャロフスキー。弟のニキータ・ミハルコフとともに旧ソビエト連邦時代から今に至るまで、半世紀以上も第一線で活躍しているフィルムメーカーだ。キャリア初期の文芸映画『貴族の巣』(70)や『ワーニャ伯父さん』(71)、黒澤明の原案に基づくアメリカ映画『暴走機関車』(85)、スターリン時代の実話を映画化した『映写技師は見ていた』(91)などは日本でも広く知られている。

そんな現在84歳の巨匠が新たに発表した『親愛なる同志たちへ』は、1962年にソ連の地方都市でありウクライナにほど近い町ノボチェルカッスクで実際に起こった虐殺事件(ノボチェルカックス事件)と向き合ったヒューマン・ドラマ。ソ連崩壊後の1992年まで30年間、国家に隠蔽されてきた衝撃的な歴史の真実に迫った作品である。第77回ヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、第93回米アカデミー賞国際長編映画賞・ロシア代表に選定されるなど、すでに世界各国で絶賛を博している。

【脚本について】

脚本段階からコンサルタントとして協力したのは、現司法省少将ユーリ・バグラエフ。彼は1992年6月当時、主席軍事検事補佐官としてノボチェルカックス事件を担当、行方不明者の調査チームの責任者を務めるなど、1994年9月の調査終了まで事件の全容解明に尽力した。

【画角について】

ソビエト映画のイメージにできるだけ近づけるために、当時の映画では主流であったモノクロかつ1.33 : 1のアスペクト比で撮影した。

(↑『『親愛なる同志たちへ』』公式HPより抜粋引用)

 

ノボチェルカックス事件

フルシチョフ政権によって1950年代後半から1960年代前半に導入された経済・貨幣改革により、物価上昇と食料不足が国中を蔓延する。1962年6月1日(土)、給与カットに対する労働者の不満が高まり、ロシア南西部の町ノヴォチェルカッスクの国営機関車工場で大規模なストライキが発生。群衆は5000人を超え、鉄道を封鎖し、現地共産党幹部が集結する工場の管理棟を占拠するなど暴徒化した。翌6月2日(日)、戦車とともにソ連軍がノボチェルカッスクに入り、群衆を暴力的に鎮圧。KGBのデータによると死者26人(非公式では約100人)、負傷者数十人、処刑者7人、投獄者数百人に達した。この事件はソ連が崩壊するまで約30年間隠蔽されていた。

(↑『親愛なる同志たちへ』公式HPより)

 

主人公リューダを演じる、ユリア・ビソツカヤ(1973年生まれ)はアンドレイ・コンチャロフスキー(1937生まれ)監督の妻(1998年~)。歳の差、36歳。

 

受賞

ヴェネチア国際映画祭(第77回、2020)

審査員特別賞

シカゴ国際映画祭

監督賞受賞

 

原題

Дорогие товарищи!

(英題:Dear Comrades!)

 

一言あらすじ

1962年6月1日、ソ連南部ノボチェルカックスの国営機関車工場でストライキが勃発。社会主義国家で起こったこの出来事に危機感を覚えた政権は、スト鎮静化と情報遮断のため高官を現地に派遣し、翌日には約5000人の市民に対し銃撃を行う。熱心な共産党員のリューダ(ユリア・ビソツカヤ)は、娘を探すが見つからず、信じてきた党に対し疑念を抱き始める・・・

 

感想

社会主義国家の実態を

一部なりとも

映しているであろう本作。

 

 

主人公リューダの

登場から間もなく、

 

ピリピリ感がハンパない!!汗

 

 

観ているこちらまで

居心地が悪くなるほどの

 

イライラが伝わってくる・・・

 

 

 

イライラの原因は、

 

党に対して市民が悪口を言うことだ。

 

 

 

我が共産党は素晴らしい。

 

我が同胞は尽力している。

 

不満など口にするな!

 

 

信じきっていることが、

一種の狂気に近い感情を作り出す。

 

 

 

以下、ネタばれ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ストに参加する者は、

全員逮捕しろ!

 

 

軍隊を呼べ!

 

 

最初は軍隊も

銃を持っていなかったが、

 

ストを抑え込むことが出来ず、

暴動は増すばかり。

 

 

 

高官は、

軍隊に銃を配備させる。

 

 

 

そして事件は起こる。

 

 

 

KGBが軍に紛れて無差別に発砲を開始。

 

【KGB:ソ連国家保安委員会:

Komitet Gosudarstvennoy Bezopasnosti

 

(映画内では確かそういう感じだった)

 

 

 

 

あっという間に

遺体が山積みとなり

 

地獄絵図と化す・・・

 

 

 

翌日、

病院の者や関係者、

その事件を知る者は、

 

この事件について一切話さないと

誓約書を書かされる。

 

 

 

熱心な共産党員リューダは

あの現場にいたはずの

スヴェッカを探すが見つからない。

 

 

 

どこにいるのか?

 

まさか死んでしまったのか・・??

 

 

 

 

強硬手段を支持していたリューダは

 

 

いざ自分の娘がいなくなって

 

初めて自分の思想、

 

党への信頼が

 

 

 

揺らぎ始める・・・

 

 

 

絶対的に信じていたものが

ガラガラと崩れさる瞬間、

 

 

初めて信じたものの

本当の姿に気付く。

 

 

 

ラスト、

 

数日前のリューダは、

今この瞬間の自分を想像できただろうか?

 

 

もはや過去の自分はいない。

 

 

 

理想ではなく、

 

現実をそのままに引き受ける。

 

 

 

 

鑑賞していて

すごく印象に残ったのは、

 

 

リューダが登場する場面(カット)は

 

基本的に

常に彼女をフォーカスしている

と思われる点だ。

 

 

 

構図的にも、ピントも

 

 

いつも話の中心は彼女なのだ。

 

 

(画も工夫されていて、好きな感じ)

 

 

 

当時のイメージを再現した

スタンダード&モノクロも美しく

(映像はだいぶ綺麗だが)

時代錯誤感が全くなく

 

そういうところにこだわる感覚、

 

大好きです。ww

 

 

 

本作は悲劇の事件が基だが、

 

 

あくまで

母であり、共産党員であるリューダの

最終的な変化の物語なのだろう。

 

 

 

この歴史的事実を知らなかった私は、

衝撃を受けたけれど、

 

こういったことを

垣間見ておくだけでも

 

歴史や国家間の問題について

考えるきっかけになるので

勉強にもなる。

 

 

 

映画で観ると

映像美を楽しみながら

分かりやすく知ることができるので

本当に為になります。

 

 

 

世界を、歴史を知ること。

 

 

知識がない私には、

 

とても大事な時間です。

 

 

(2022年4月28本目。本年度138本目、映画館51本目)

 

 

 

スタッフ

監督・製作:アンドレイ・コンチャロフスキー

脚本:アンドレイ・コンチャロフスキー、エレナ・キセリョワ

撮影:アンドレイ・ナイジョーノフ  音楽:ポリーナ・ボリンキナ

編集:セルゲイ・タラスキン、カロリーナ・マチェイェフスカ

美術:イリーナ・オシナ 衣装:コンスタンチン・マズール

製作統括:アリシェル・ウスマノフ 製作総指揮:オレサ・ヒュドラ

配給:アルバトロス・フィルム

 

キャスト

リューダ:ユリア・ビソツカヤ

ヴィクトル:アンドレイ・グセフ

ロギノフ:ウラジスラフ・コマロフ

スヴェッカ:ユリヤ・ブロワ

リューダの父:セルゲイ・アーリッシュ