鑑賞記録(2022.5.2)クリスティアン・クレーネス、他3名の監督『ゲッベルスと私』2016@元町映画館

鑑賞記録(2022.5.2)

監督(4名)

クリスティアン・クレーネス

フロリアン・ヴァイゲンザマー

オーラフ・S・ミュラー

ローラント・シュロットホーファー

 

『ゲッベルスと私』2016

元町映画館

 

『ゲッベルスと私』2016/113分/オーストリア(ドイツ語)/モノクロ/16:9

終戦から69年の沈黙を破り、ゲッベルスの秘書・ブルンヒルデ・ポムゼルが語る30時間に及ぶ独白インタビューをまとめたドキュメンタリー。

いくつもの高精度カメラは、ポムゼルの深く刻まれた顔の皺や表情だけではなく、瞳の奥に宿す記憶をも鮮明にとらえる。幼少の頃の父の思い出、初めて出来た恋人の話、ユダヤ人の友人の面影、そして”紳士”ゲッベルスについて、103歳とは思えぬ記憶力でカメラに語りかける。”いわれたことをタイプしただけ”と語りながらも、時折、表情を強張らせて慎重に言葉を選ぶポルゼム。それは、ハンナ・アーレント(※)における”悪の凡庸さ”をふたたび想起させる。(本作チラシより)

ハンナ・アーレント(※)

ドイツ出身の哲学者、思想家である。ユダヤ人であり、ナチズムが台頭したドイツから、アメリカ合衆国に亡命した。のちに教鞭をふるい、主に政治哲学の分野で活躍し、全体主義を生みだす大衆社会の分析で知られる。

彼女の政治哲学の原点は「人間のなしうる事柄、世界がそうありうる事態に対する言語を絶した恐れ」であった。なぜ人間にあのような行為が可能であったのかという深刻なショックと問題意識から、彼女は政治現象としての全体主義の分析と、その悪を人びとが積極的に担った原因について考え続けることになる。(ウィキペディアより一部抜粋)

 

原題

A GERMAN LIFE

 

ブルンヒルデ・ポムゼル

1911年1月11日ベルリン生まれ。1942年から1945年までゲッベルスの秘書として働く。1945年、第二次世界大戦終戦後、ソヴィエト軍に捕えられ1950年までの5年間、強制収容所に抑留される。1950年に解放され、1971年の定年退職までドイツ公共放送連盟ARDで働く。2017年1月27日、ミュンヘンの老人ホームで死去。享年106。(本作チラシより)

 

ヨーゼフ・ゲッベルス

1897年10月29日生まれ。国民社会主義ドイツ労働党(ナチス)・国民啓蒙・宣伝大臣としてプロパガンダを管轄し、大衆をナチス支持へと扇動した。1945年5月1日、第二次世界大戦終戦間際、ヒトラーの自殺を追って、総統地下壕で家族とともに自殺する。(本作チラシより)

 

一言あらすじ

ナチスの事実上ナンバー2のゲッベルスの秘書をしていたポムゼルが、当時のことを語る独白インタビュー。衝撃のアーカイヴ映像などが多数挿入されている。

 

感想

ただ一人、

静かに語り出すポムゼル。

 

当時103歳だったらしいが

そのはっきりとした語りは、

 

時間が経過し、

風化した様子は

 

まるでない。

 

 

政治には全く関心がなかった彼女。

 

 

ただ生活のために

 

仕事として

たまたま紹介されたところから

 

ゲッベルスの秘書として

働くことになった。

 

 

指示されたことを

忠実に、正確にこなすのみ。

 

 

一緒に仕事をするからには

 

信頼関係を大切にし

言われたことをきちんと守る。

 

 

仕事をするうえで

普通ならこういったことが

とても評価されるはずだ。

 

 

しかし、

上司が、国が、

非人道的なことを行っていた。

 

強制収容所については

そこで何が行われているのかを

知らなかった。

 

 

刑務所に入る手前の

収容施設と思っていたらしい。

 

 

たしかに、

そこで何をしているか聞かされなければ

本当のことなど

分からないかもしれない。

 

 

余計なことを言えば

罰が下るとわかっていたら、

 

わざわざ聞いたりして

そんな面倒なことをするだろうか?

 

 

 

とくにポムゼルは

 

色々首を突っ込んだり、

無茶をするタイプでもない。

 

(だから生き延びたとも言えるかもしれない。)

 

 

食べるのもやっとの時代だ。

 

 

言われたことを忠実にこなし

給料をもらい、

生きていければそれで十分だっただろう。

 

 

当時その場に居なかった人間に

 

彼女のことを

責めることなんて

出来るはずがない。

 

 

 

戦時中のドイツに、

ましてや国のトップの秘書に

 

たまたまなってしまった彼女。

 

 

”自分は知らなかった”

 

 

きっとそうなんだと思う。

 

 

 

戦争が終われば、

 

立場によっては、

180度正義が変わる。

 

 

彼女は言う。

 

 

”正義なんて存在しない”

 

 

考え方、見方によって

簡単に変わってしまう

正義。

 

 

たしかに、

それは確固たるものではないかもしれない。

 

 

 

この映画公開の翌年、

彼女は亡くなっている。

 

 

この独白が

最後の仕事であるかのように。

 

 

 

きっと何十年も

心に棲みついていただろう

当時の思いや情景。

 

 

知らない間に

加害者に加担していたことも

彼女は自覚している。

 

無自覚での出来事だったとしても。

 

 

 

当たり前すぎるけど

戦争とは、迫害とは、

なんという辛い出来事なんだろう。

 

 

アーカイヴ映像も

信じられない映像が映る。

 

 

丸裸で、

ほぼ骨と皮だけになりながら

なんとか生きている

強制収容所のユダヤ人の人たち。

 

 

そして

同じくほぼ骨と皮になった

ミイラのような大量の遺体が

無造作に山積みになっている。

 

 

衝撃的すぎて

目に焼き付いている・・・

 

 

決して繰り返してはならない

重要な記憶・記録として

今後も語られることだろう。

 

 

 

ポムゼルの語りと

アーカイヴ映像との合間に

 

ゲッベルスの言葉が

映される。

 

 

それは、

名言とも言えるほど

 

色々な物事を的確に捉えていて、

 

進む道が

この方向でなければ

 

きっとこんな

悪名高い評価を受ける人間には

ならなかったのではないかと

思ってみていた。

 

 

歴史にまつわる映画は

 

やはり色んなものを

観ておきたいと思う。

 

 

 

そして

なるべくフラットに

 

何事も決めつけないで

 

自分の頭で考えられる

 

心と体を作っておきたいと思う。

 

 

 

(2022年5月1本目。本年度146本目、映画館54本目)

 

 

スタッフ

監督:クリスティアン・クレーネス、フロリアン・ヴァイゲンザマー、オーラフ・S・ミュラー、ローラント・シュロットホーファー

脚本:フロリアン・バイゲンザマー

編集:クリスティアン・ケルマー

配給:サニーフィルム

 

キャスト

ブルンヒルデ・ポムゼル